PP Møbler 究極の一脚 PP19 パパベア
デンマークを代表する家具デザイナーのハンス J.ウェグナーによって、1951年にデザインされたPP19、通称パパベア。ウェグナー好きが最後に行き着く椅子とも言われる、知る人ぞ知る名作です。
Yチェアをはじめとし、生涯で500種類以上の椅子をデザインしたウェグナーが、晩年を過ごした介護施設へ持ち込んだ”唯一の椅子”というほど、彼にとって思い入れの深い一脚でもあります。
今回は、家具工房PP Møbler(PPモブラ―)でパパベアがどのように作られているのかご紹介しながら、CONNECTでも1位、2位を争うその座り心地の秘密に迫りたいと思います。
1.PP19パパベアとはどんな椅子?
名前の由来
パパベアという愛称は、ある記者が「後ろから熊に抱きしめられてるような座り心地だ」と表現したことからそう呼ばれるようになりました。 他にも「ベアチェア」「テディベアチェア」など様々な愛称で呼ばれ親しまれています。
実はウェグナー自身は、自らデザインした作品に名前をつけることは一切なく、品番をつけるのみでした。それは、彼が「家具は愛でるための芸術作品ではなく、人の生活に密着した日常工芸品である」という考えをもっていたからです。
色々な体勢を楽しめる
パパベアは、アームの下が大きく空いています。このスペースがあることで、足の向きを変えられ、気の向くまま自由な体勢で座っていただけます。
このように斜めに座って背もたれの角に頭をあずけ、アームの上に両足を投げ出して仰向けになる等、どんな体勢でもパパベアは優しく強く受けとめてくれます。
包み込まれるような安心感のある座り心地
綿密に計算された構造と素材の豊かさが織りなすパパベアは、座ると誰しもが「はぁ〜〜」と至福の声を漏らしてしまうほど座り心地の良さは群を抜いています。
アーチ状の広い背もたれに身体をすっぽり預けると、そこは瞬時に自分だけのプライベート空間。
頭の先までしっかりと支えてくれる背もたれは、ストレスを感じさせないベッドに横たわったかのような安心感を与えてくれます。
長時間ゆったりとお過ごしいただくには最も適した最高のラウンジチェアと言えます。
2.世界最高峰の家具工房PP Møblerと巨匠ウェグナー
現在、パパベアを製作しているのは、1953年に創業して以来、ウェグナーとともに数々の名作を世に生み出したデンマークの家具工房PP Møbler(PPモブラ―)。木材の調達から加工、最後の仕上げまで、家具作りの全工程を自社工房で行い、少数の優れた職人の手仕事で高品質な家具を製造してきました。
元々、パパベアは、AP Stolenというデンマークの別の工房で、1951年から1970年代半ばまで生産されていました。PP Møblerは、創業間もない1953年から下請けとしてフレーム部分の製造を開始しました。しかし、AP Stolen社が廃業したことで長らくパパベアの生産がストップし、30年近く経った2003年に、PP Møbler創業50周年を記念し、復刻生産することになりました。この時以降、ウェグナーの遺族の意向もあり、製作の全工程をPP Møblerで行うことになります。
PP Møblerにとってパパベアは、自社で製造された最初のウェグナーデザインであり、その後の長きに渡るウェグナーとのパートナーシップを築くきっかけともなった特別な一脚です。
3.見えないところまで一切手を抜かない。PP Møbler究極の一脚。
パパベアは、熟練の職人がひとつひとつ手作業で仕上げていくチェアです。
頑丈な木製フレーム
PP Møblerで使用する木材は、森で木の状態を確認した上で根から引き抜いて仕入れ、含水率を極限まで下げて製材された、最高品質のものです。フレームには非常に硬く強度と耐久性のあるオーク材もしくはアッシュ材を用いています。
パパベアはアームの下が大きく空いているため、アームに荷重がかかりやすく、構造的に難しい椅子です。しかし、後ろ足からアームまで1本の頑強な木材で支え、強固に接合することで、構造的な弱さをカバーしています。
天然素材を用いたこだわりの椅子張り
頑丈な木製フレームの土台の上に、綿、ヤシの葉、亜麻繊維、馬の毛の4つの天然素材を少しずつ詰め、背もたれの部分にはコイルスプリング(金属バネ)を取り付けることで、形をつくり上げていきます。
天然素材を用いた成形は非常に難しく、布や革で覆う前のこのプロセスに、何日もの手作業が必要となります。両アームの詰め物だけで丸2日半かかるほどです。
コイルスプリングは、リネン生地の袋に縫い込まれ、ジュート製のストラップで背もたれの全長にわたって張られます。
使用するバネは、ベッドのマットレスの中身を裂いて研究を重ねた、こだわりのものです。
コイルスプリングの周りに天然素材を詰めるので、背部に柔らかくも反発のある座り心地が得られます。
パパベアチェアの張り作業には少なくとも 1 週間(ファブリックは約6日、レザーは約12日)かかり、各職人が最初から最後まですべての工程を実行し、極めて丁寧に仕上げられています。
こうして出来上がったパパベアは、素材自体が呼吸するため、座ると非常に気持ちがよく、身体が喜ぶ感覚を得られます。また、天然素材を用いることで、使い込むほどに柔らかく快適な座り心地となり、摩耗するのではなく、”馴染む椅子”として座る人の身体に寄り添うように変化してゆきます。
4.機能性とデザインを両立させた妥協のない設計
汚れにくい配慮がなされたアーム先端(爪)
パパベアは、全体がファブリック、もしくはレザーで覆われていますが、先端部分の爪は汚れと摩耗に強い”木”で出来ています。先端は座った時に手で触れることが多く汚れやすいためです。
また、この部分に木材が使われることで、どことなくチャーミングな印象もプラスしてくれています。
リバーシブルで使える座面
座面のクッションは、取り外し式でリバーシブルでお使いいただけます。汚れた場合には、クッションだけ交換することもできます。
カスタマイズ自由自在
パパベアは、張り地の種類、脚と爪の樹種や仕上げなど、多種多様なバリエーションからお好みのものをセレクトしていただけます。写真のように、張り地のカラーや質感、どの木材を選ぶかで大きく印象が異なります。
【張り地】
ファブリックまたはレザーをお選びいただけます。
座面クッション、パイピング、ボタンは、メインの張り地とは異なる革や布地でカスタマイズできます。
【脚と爪】
脚と爪はオーク、アッシュ、チェリー、ウォルナットからお選びいただけます。
【仕上げ】
オイル仕上げまたはラッカー仕上げからお選びいただけます。
オークとアッシュはソープ仕上げも可能です。
なお、パパベアは受注生産品であり、多くの注文を少数精鋭の職人たちが1脚ずつ順番に対応しているため、現在の納期は1年ほどです。この椅子には、簡単には手に入らないこそ味わえる”待つ楽しみ”があります。
こうしてお迎えした自分だけのオリジナルパパベアは、より一層愛着の湧く存在となってくれることと思います。
5.100年後に価値も想いも受け継いでいくことのできる椅子
パパベアは、決して安い椅子ではありません。
しかし、今なお世界中で愛され、売れ続けています。
その理由はどこにあるのか?
1つは、パパベアが、デザイン、使用している材、職人の技術、座り心地、すべてにおいて間違いなく世界最高峰の椅子であるということ。パパベアのことを全く知らない方でも、座るとその心地よさに驚かれます。事実、パパベアを購入される方は、パパベアのこともウェグナーのこともPP Møblerのことも全く知らない方が多数派です。
2つ目は、PP Møblerの、森と木を愛し、人を想い、そして、採算度外視で自分たちの家具づくりに対する信念を貫き通す姿勢に、心を打たれ、惚れ込むファンが多くいるためです。世界各国であらゆる家具とその製造現場を見て来た人々が、実際にPP Møblerの工房でその妥協を許さない丁寧なものづくりを目にし、「こんなことは世界中どこも真似できない。パパベアはむしろ安いくらいだ。」と感嘆の声を挙げるほどです。
時代が変わり、人々の価値観が移りゆこうとも、パパベアには揺らぐことのない確かな価値があります。
数十年ともに暮らし、やがて自分の手元から離れ、子や孫の世代に受け継がれた時にも、その価値がなくなるということはありません。
まとめ
今回は、PP19パパベアについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
パパベアは、デザインしたウェグナー自身が愛着を持ち、晩年をともに過ごした椅子です。
そして、PP Møblerの誇り、揺るぎない品質へのこだわりが詰まった、究極の一脚でもあります。
この不朽の名作に座って、パパベアのやさしさと包容力をぜひ体感してみてください。