愛しき人へのチェア、PK9。
1960年、ケアホルムが31歳の時ミラノ・トリエンナーレにおいてデンマークのパビリオンを担当し、グランプリを受賞しました。
『PK9』は同年、彼のデザイナー人生において勢いに乗っているタイミングで、妻ハンナのためにデザインされた愛情あふれる一脚です。
「自然に勝る美しさはない」と強く感じていたケアホルムは、五感で自然を感じられる海辺の近くに自邸を建てました。
PK9のシェルのフォルムは、妻ハンナと海辺を散歩していた時に、砂浜にハンナが腰かけてできた"砂の跡形"を忠実に再現して作られたと言われています。
ケアホルムにとって心が研ぎ澄まされる自然美の中で、妻ハンナとの"一瞬の愛しいひととき"から生まれたチェアがPK9です。
別名「チューリップチェア」とも呼ばれる、優雅さを感じさせるチェア。
脚先の優雅さから、愛があふれる一脚。
PK9はどこから見ても美しい曲線的なフォルム。特に脚部は、エレガントで美しい印象を与えます。
特に脚先は、ケアホルムの代表作である『PK22』の安定感ある脚先とは異なり、そっと床に脚先を置いたような静かで優雅な佇まいが特徴です。
まるでハイヒールを履いた女性を彷彿とさせ、凛とした美しさを感じられます。
脚部の伸びやかな曲線は、光を柔らかく反射させ、空間に温かみをもたらし、まるで"花を飾ったような"優しい空気感を放ちます。
愛しい人が座った時に、その美しさが初めて完成するというケアホルムの想いを深く感じます。
浮遊感あふれる最高の組み合わせ
PK9はケアホルムが自邸でダイニングテーブル『PK54』と合わせて使っていたチェアです。
彼は妻ハンナと過ごす特別な時間に想いをはせながら、PK9とPK54をデザインしたのではないのでしょうか。
PK54の表情豊かな大理石の美しさと、PK9の気品ある静かな優雅さ。
PKシリーズ特有の浮遊感が際立つ、唯一無二のダイニングシーンの完成形といえるでしょう。
細部までつくりこまれたデザイン 完璧主義者ポール・ケアホルムのこだわり
心地よい「しなり」を生む三本脚
通常、四本脚のチェアが多いところ、PK9は三本脚。それはケアホルムだからこそ実現できる独特の形と構造です。
三本脚だからできた「しなり」と「安定性」には秘密があります。
三方向に広がった脚の上部で体重を一旦受けとめ、中部で一本の剛健な柱となり、脚先は再び三本になり重みを分散させてくれる構造なんです。
左右に動いても、座面に手をついても程よくしなり、椅子と体が一体化するようなかけ心地。
緻密な設計から生み出されたPK9は、些細なズレも生じない完璧な構造が実現した作品です。
奥様のビーチに座ったお尻の形
PK9は、PKシリーズの中で「最も座り心地がいい」という声も多いチェアです。
その理由は、座面が広く、身体のラインを型取って作られているため、堅さを感じにくい安心感のある座り心地だからです。
ケアホルムが大切な人を想ってつくったチェアだからこそ、どこまでも愛を感じる一脚です。
分解できる構造
ケアホルムは、常々輸送費を抑え、様々な国や地域に家具を届けたいと考えていました。現地で組み立てが出来るようデザインした家具が多いことも特徴です。PK9もまさにそのような考え方に基づいてデザインされています。
もしパーツに不具合が生じた場合でもそのパーツを交換することで再び長く使える。
このようにメンテナンス可能な構造にすることで持続性の高い家具になっているという点にも、ケアホルムの強い信念を感じます。
デザイナー:ポール・ケアホルムの美学
ポール・ケアホルムは、1929年にデンマーク北西部の田舎町で生まれました。
15歳で家具職人に弟子入りし、18歳でキャビネットメーカーのマイスターの称号を取得。
ハンス J. ウェグナーのもとで様々なことを学び、バウハウスからも大きな影響を受けていました。
デンマークのクラフトマンシップの精神を継承しながらも、型にはまらない異色の才を示し続け、北欧モダン家具の歴史に大きく名を残したデザイナーです。
PKシリーズは、51歳という若さで早世したケアホルムに敬意を表し、1982年からフリッツ・ハンセンによって製造が開始されました。
彼の生み出した名作の数々は時代を超えて多くのファンに愛され、現代の名だたるデザイナーや建築家たちからも、非常に高い評価を得ています。
時間と空間をつくる家具デザイン
ポール・ケアホルムは、自らを「家具建築家」と称することを好みました。
彼は“ただ通り過ぎるだけでなく、明確な人間関係が構築される空間”を目指し、家具が空間に与える作用と、そこで生まれる人間の営みまでをも見据えて、ひとつひとつの家具を設計していったのです。
▼生前の自邸の写真 奥:PK11(チェア) 手前:PK31(ソファ)
ケアホルムのデザインは、徹底的に無駄をそぎ落とし、
構造を明確にすることで素材ひとつひとつの美しさが際立っています。
“家具が明晰な美しさを持っていれば、そこで過ごす人々の関係性も風通しの良い澄んだものになる”
そんなことを彼は考えていたようです。
美の追求
PKシリーズには、ポール・ケアホルムによる徹底的な美の追求が見てとれます。
家具は暮らしの中で、一般の多くの人に使われる実用的な工業製品です。
しかし同時に、ケアホルムは家具をつくるうえで、自らの美学を表現することにも一切の妥協を許しませんでした。
“美的感覚やデザインに価値を感じないのなら、段ボールに座っているようなものだ”
ケアホルムの家具デザインの背景には、このような確固たる哲学がありました。
▼1952年 チューリッヒの応用美術展の写真(右奥にPK25、手前にはPK60が並べられ、左奥にはPK0の座面が裏返しで吊り下がっている)
ポール・ケアホルムの大きな功績の一つは、それまで家具製作にあまり使われてこなかった木以外の素材を、非常に美しく機能的な素材としてデザインに取り入れたことです。
PKシリーズを象徴する代表的な素材は「スチール」。
ケアホルムは、“木材やレザーと同様に、スチールも風合いを増してゆく芸術的な素材だ”と考えました。
その厚みや表面の加工方法にいたるまで何度も試行錯誤をくり返し、無機質で冷たい素材と思われていたスチールが、本当は木にも劣らない美しい素材であることを示したのです。
▼森の写真パネルを背景に、PK22のフレームがずらり。ケアホルムが自然と調和するデザインを追い求めていたことがわかる1枚。
ケアホルムの作品は、他の木製家具とは異質な素材とデザインでありながら、有機的で、どこか自然の美を感じさせる豊かな表情をもっています。
そこには、“美しさの基準は自然界にある”と常に考えていた、彼の自然への憧憬が表れています。
卓越したセンスで描かれた曲線美。選び抜かれた素材のなめらかな手ざわり。澄明な構造と生き生きとしたプロポーション。
木々の伸びやかな幹や枝のような、自然の中に遥か昔から息づいている根源的な美しさを、家具デザインを通して私たちに伝えてくれているように思えます。
リ・デザインの精神
ケアホルムは、偉大な先人のデザイナーや建築家に敬意を払い、彼らの作品を熱心に研究していました。
そのうえで、より一層そのデザインの本質に迫り、洗練されたものを生み出そうとする「リ・デザイン」の精神で、先人たちを超えていこうと常に挑戦していたのです。
関わりのあったオーレ・ヴァンシャーやハンス J. ウェグナーといった北欧モダンの先駆者や、ミース・ファン・デル・ローエをはじめとするバウハウスの偉大な先人たちから大きな影響を受け、伝統と歴史の流れにしかと身を置きながら、常に新しい価値を生み出し続けたポール・ケアホルム。
彼の作品には、デンマーク家具の歴史と一人の人間の生き様が深く刻み込まれています。
ポール・ケアホルムについてもっと知りたい方はこちら
PK9のコーディネート例
愛しい人と過ごす毎日が特別な時間に変わるダイニングシーン
▲ PK9(チェア)・PK54(ダイニングテーブル)
無機質な空間でも、ゆったり、柔らかい時間を。
▲ PK9(チェア)
サイズ
高さ 77cm / 幅 58cm / 奥行き 58cm / シートの高さ 43cm
張地・カラーバリエーション
CONNECTのおすすめは「グレースレザー(ウォルナット)」です。
グレースレザーは厳選されたフルグレインレザー(表面に天然の凹凸が入った最上級の本革)です。
経年変化をより感じることができるレザーのため、自然な風合いと豊かな表情の変化を味わいたい方におすすめです。
グレースレザー
ブラック
ダークブラウン
ウォルナット
チェスナット
グレースレザーはベジタブルタンニン(植物由来のオイル)でなめされているため、レザー本来のなめらかな手ざわりが魅力的です。 未加工の自然な表面のためナチュラルマーク(皮本来のシワなどの模様)があり、時間の経過とともに美しい自然なツヤが生まれます。
なかでもCONNECTがおすすめするカラーは「ウォルナット」です。脚部の伸びやかな曲線が光を美しく反射させるPK9は、経年変化で艶感を感じやすい「ウォルナット」の優しい色合いがよく調和します。
PK9 その他の張地
オーラレザー
ブラック
ダークブラウン
ウォルナット
コニャック
オーラレザーは保護コーティングが施されているため、汚れに強く、お手入れもしやすいという特徴があります。
エンブレイスレザー
チョコレート
コンクリート
ラスティックレザー
ラスティック
ナチュラルレザー
ナチュラル
FRITZ HANSENの公式サイトにて、カラーのシミュレーションやAR機能を使った設置想定ができます。
ぜひお試しください。
https://www.fritzhansen.com/ja/categories/by-series/pk9/pk9
お手入れの仕方・お取り扱いの注意点
■スプリングスチール サテン仕上げ(脚部)
https://www.fritzhansen.com/ja/sales-support/care-and-maintenance/stainless-steel
■レザー(座面)
https://www.fritzhansen.com/ja/sales-support/care-and-maintenance/leather
在庫状況・納期・搬入について
PK9は現在国内在庫がなく、海外からの取り寄せとなっております。
納期の目安は約5か月です。
組み立て済み・段ボール梱包にてお届けいたします。